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2021年 8月 31日 百聞は一見に如かず
私はこの夏休みの間、東進で働く合間を縫って細々と就活をしていました。医学部に入れば就活はないと思っていましたが、現実はそう甘くなく、就職浪人が(ほぼ)ないだけで、自分が心から働きたいと思える病院に就職するためには、見学に赴き、職場の雰囲気を確かめなければなりません。ちなみに就活というと自分を売り込みにいくというイメージが第一に浮かびますが、医学生の就活はむしろ高校生が大学のオープンキャンパスに参加するイメージの方に近いです。
つい先週、某病院を見学してきました。動機は単純です。毎年研修医が働きたい病院ランキング上位に名前があるため、なぜそんなに人気なのか確かめてやろうと思ったからです。
見学期間は3日間で、救急科にお邪魔することになりました。救急科はどこの病院でも研修医が中心に活躍できる場所なので、2年後の自分をイメージするにはちょうどいいかなと思い選びました。ちょうど私が見学する期間に救急科で研修していた研修医の方が信じられないくらい親切な方で、3日間通してつきっきりで指導してくださいました。こればっかりは見学に来ないと得られない出会いです。病院情報サイトに研修医の雰囲気や人柄が書いてあったりしますが、対面で話して彼らの間に根付く風土を肌で感じるに勝ることはありません。ネット記事には決して表現されることのない絶妙な雰囲気がどの病院にもそれぞれあります。ネットの情報だけで判断しなくてよかったと思います。
研修医の方とじっくり話せたことだけでも大きな収穫でしたが、見学最終日に思わぬサプライズがありました。当直見学明けで意識が朦朧としている時に、突如院長先生が声をかけてくださり、先生の外勤先(本職場とは別に週1~2回だけ働く副職場)に連れて行っていただけることになったのです。行き先の詳細を教えてもらわないまま、とにかくついて行くとたどり着いたのは台東区山谷地区、かつて日雇い労働者の人たちが多く暮らしていた地域です。現在この地域にはホームレスの方が多く暮らしています。先生の外勤先はこの地域でおそらく唯一のホームレスの方たちのために開かれている無料診療クリニックでした。端からみたらクリニックだとはわからない、木造2階建ての建物の前に、我々が到着したときには既に行列ができていました。大学病院では当たり前の電子カルテはもちろんなく、昔ながらの紙カルテと昔ながらの手動血圧測定器を用意して、先生の診察が始まりました。私は血圧測定係として診察中の先生の背中を見ていましたが、その口調や仕草は今まで出会ったどの先生よりも優しかったです。患者のおじさんたちもこのときばかりは安心するのか、自然と笑顔がこぼれるのです。
多忙を極める某有名病院の院長先生が、仕事の合間を縫ってこのような活動をしているとは思いもしませんでした。衝撃を受けると同時に、自分は本当はどんな医師になりたいのか、どのように生きるべきなのか、深く考え直すきっかけになりました。
先生はなぜこの活動を始めたのかご自分からお話することはありませんでした。私もあえて聞くことはしませんでした。言葉で聞かずともその背中から充分に先生の信念を感じることができたからです。
このあと、ホームレスの方々に食料等の配給をして3日間の病院見学が終わりました。
なんとも不思議な3日間でした。単に病院を見学しにきたつもりが、思いがけず多くのことを学ぶ機会となったのです。それも普段の生活では決して学ぶことのできないことばかりでした。
ネットの情報だけで満足せずに、暑い中見学しに行って本当によかった。
実際に足を運ぶと、思いがけない出会いや経験があるものです。ネットなどで仕入れた情報とは全く異なる印象を受けることも少なくありません。
わからないならとりあえず現地に行ってみる、興味があるなら訪ねてみる。
大学選びも同じです。別にオープンキャンパス期間中でなくても、とりあえず行ってみれば良いのです。適当に学生を捕まえてインタビューしてみれば、それが思いがけない出会いとなって、進路の決定打になるかもしれません。
高3生だってまだ遅くはありません。第一志望を絞り切れていなかったり、モチベーションが下がってきた場合は、敢然、大学に行ってみるのがよいかと思います。
その時間は惜しむべきものではないと思います。
担任助手5年 青島健人